2008.3.4掲載 2009.10.15更新

平取ダム計画と問題いろいろ

2007年計画変更の概要と問題─
 
Sasaki Akira


 1.額平川の自然文化と平取ダム計画

 霊峰ポロシ[大いなる山:幌尻岳]を源とする額平川の流域は、一体として、アイヌ民族の精神文化における聖域に相当すると考えられています。
 流域には、「オキクルミ伝説」に代表されるカムイユカ [神謡]等、アイヌ民族の伝承や伝説が、数多く残されています。 そして、川の流れや山、崖地といった、自然の地形そのものが、アイヌ民族の伝統的な信仰の対象とされてきました。

 川は徒歩や[丸木 舟]による重要な交通路であり、漁労やアッニ[オヒョウニレ]の樹皮の加工を行なうなど、伝統的な生産の場でもあ りました。氾濫原である河原では伝統的な農耕が行われ、また流域はイウォロ[猟場、生活の場]として、広く利用さ れてきました。

 平取ダムの建設計画は、伝統的なアイヌ文化の継承に、精神文化と生活文化の両面から、大きな問題を与えています。
  

 平取ダムの堤体は、額平川の深く広い渓谷に建設が計画されています。堤体予定地右岸側の急峻な山地は、アイヌ民族の伝統的信仰によるチノミシ[祈りの場]の一つです。

 平取ダム堤体予定地付近は、かつてはサケ・マスの産卵場であり、伝統的に重要な捕獲場で あったと伝えられています。現在は、二風谷ダムや取水堰の建設、また2003年洪水の影響により、生息する魚類は非常に少なくなっています。
 ダム予定地付近では、クマタカ、オオタカ、オジロワシ等11種の猛禽類が 確認されています。1980年代までは、シマフクロウも見られたといいます。
 現在も、ヒグマ、エゾシカ等の野生動物が、額平川を生活の場や移動経路として利用しています。

 アイヌ文化環境調査、自然環境調査の進行とともに、額平川と平取ダム予定地の重要性につい ての認識が高まってきています。

【参考WEB資料】

・平取ダム予定地(Youtube動画)

・平取ダム問題・現地レポート2009-4(Youtube動画)

・沙流川ダム問題 Map(Google Map)


 2.平取ダム問題の背景

【クリックで別ウインドウが開きます】

  沙流川ダム問題の経緯
(1)沙流川総合開発と苫東工業基地計画 (5)ダム計画の変更と着工
(2)二風谷ダム裁判 (6)自然環境調査のやりなおし
(3)国と道による再評価 (7)平取ダムとアイヌ民族文化
(4)2003年8月洪水の発生  ●沙流川ダム問題年表


 3.平取ダム計画の主な問題と開発局の説明

 

(1)平取ダムの位置、目的と効果は?[ダ ムの必要性]

 平取ダムは、沙流川の大きな支流の一つである額平川に計画されています。ダム予定地 は、二風谷ダムのおよそ25km上流です。
 平取ダムは、2005年〜2007年の計画変更により、従来の発電、工業用水、農業用水が撤廃され、都市用水(水道)も半分以下となりました。名目上は 多目的ダムですが、実質的には治水専用ダムの位置付けとなっています。(平取ダムの諸元表)

沙流川流域図

・平取ダム予定地付近の道路地図(ヤフー地図)

・平取ダム予定地付近の地形図(国土地理院 地図閲覧サービス)

2003年8月洪水を受けて、二風谷ダムと平取ダムの容量配分を見直しました。
2つのダムの連携により、洪水調節能力を向上させます。

二風谷ダム上流域1215km2のうち、支流の額平川(ぬかびらがわ)に計画される平取ダムの集水域は234km2です。 これは、沙流川全体の17%にすぎません。この小さな額平川に、沙流川の洪水調節容量の70%が設定されています。

2003年の洪水では、確かにこの流域で多くの雨が降りましたが、次はどうなるかわかりません。 ニセウや日高方面など、額平川上流いがいの地区で強い雨が降った場合には、平取ダムはほとんど役に立ちません。
この場合、膨大な土砂で埋まり容量が著しく減少した二風谷ダムに、洪水が直接入ることになります。 二風谷ダムは2003年洪水以上に、すぐに満水となり、治水能力を失ってしまうでしょう。

 

◆河川整備基本方針および総合開発計画による、額平川の最大流量とダム調節後流量
 ・平取ダム地点 2050m3/s→360m3/s 
 ・貫気別観測所 2700m3/s→1700m3/s 

・ 平取ダムの洪水調節計画(概要)
・ 平取ダムの洪水調節の限界

・ 平取ダム地点の過去の洪水資料と、計画流量の比較


(2)どうなる? 貯水池の樹木と環境 [環境対策の迷走][ダムによる危険性]

 「ダム貯水池の樹木は伐採しない」と説明されてきましたが…?

完成予想図(改)
北海道開発局室蘭開発建設部WEBサイト『沙流川総合開発事業』等のに、 湛水による植生枯死と土砂堆積予想を加筆。
堤体形状、放流ゲートの配置等は原図のまま。この他にダム管理所、左岸側の越流防止構造等が設置されると考えられる。

 

平取ダムは、貯水池の中の樹木を伐採しないため、 自然の景観は保たれます。
(2007年2月 環境調査報告書案)

貯水池の木を切らなくても、ダム完成時の湛水試験を行なえば、数か月にわたって樹木は水没し、 植物はみな枯れてしまいます。

枯死した多量の樹木は、大雨の際に流木となって、ダムのゲートを詰まらせるおそれがあり、大変危険です。

湛水試験や洪水調節によるダムの貯水時には、沙流川特有の多量の土砂が、ダムにたまります。 平取ダムの貯水池は、二風谷ダム同様に一面「泥の海」となり、植生や生態系、景観に大きな影響を与えることでしょう。

貯水池の中の樹木を伐採しないこととしていましたが、常時満水位(冬の水位)以下の樹木は、 伐採することにしました。貯水池の樹木は、なるべく残したいと考えています。
(2008年3月 日高町説明会)
洪水調節や湛水試験では、サーチャージ水位(洪水を貯めることができる最高水位)まで水位が上がること があります。とくに湛水試験では、高い水位が数か月にわたって続きます。常時満水位以上の樹木も、 湛水試験を行なえば、水没と泥の付着で枯れてしまいます。
 ----以下同文---


(3)半分カットされたダム堤体 [ダムによる危険性]

 いつのまにか、ダム堤体の長さが半分になっています。

堤体の短縮
平取ダム環境調査検討委員会資料より。画像をクリックすると少しだけ拡大します。

建設コストを削減するために堤体左岸側の約300mを短縮します。
ダムに計画される水位には変更がないため、このままでは大規模洪水時に堤体左岸端より洪水が越流します。ダム左岸の構造は検討中です。
(2007年11月 平取町付け替え道路説明会)

ダムは、治水計画の想定を超える洪水の際にも越流をさせないように、 構造や操作規則(ただし書き操作)が定められています。洪水吐き(放流ゲート)によらない越流は、 ダムの設計では想定されておらず、越流が生じた場合、最悪ではダムの決壊につながるためです。

ダム堤体を半分にカットするならば、「越流させない安全な構造」を、具体的に提示する必要があるでしょう。

公共事業の合理化と効率化は社会の必然ですが、コスト削減のために、 国民に危険をもたらしてよいはずがありません。

また、「付け替え道路」は、「堤長600mのダム」に合わせてルートが決められています。計画を変更し、 堤長を半分にしたのであれば、山を切り通しにする大規模な工事も不要のはずです。 コスト削減のはずの計画変更が、無駄な道路工事、自然破壊を生み出しています。

【参考資料】

1996年カナダ洪水におけるコンクリートダムの決壊事例(その1)
1996年カナダ洪水におけるコンクリートダムの決壊事例(その2) 
(出典:Geological Survey of Canada

きわめて危険な状態だった、2006年8月洪水の岩知志ダム


(4)「排砂ゲート」から土砂を放流[ダ ムの耐用年数][ダムによる環境破壊]

  沙流川は流砂量が非常に多いことから、二風谷ダムでは、堤体下部に排砂ゲートを兼ねた放流ゲートを設置しました。しかし実際には猛烈な土砂堆積が進み、当 初100年間で見込んだ土砂堆積容量(堆砂容量)が、建設後わずか5年で埋まりました。土砂の大部分は、平取ダムが計画される額平川から流入しています。
 平取ダムでは、堤体下部に排砂ゲートを設置し、ダムにたまった土砂を定期的に下流に排出する計画が新たに示されました。

排砂ゲートの設置
■北海道開発局室蘭開発建設部WEBサイト『沙流川総合開発事業』より。(同名パンフレットにも同じ図が記載)
画像をクリックすると少しだけ拡大します

 
平取ダムは、毎年4〜5月の融雪期には水をほとんどためずに排砂放流を行うため、 二風谷ダムのようには、ダム貯水池への土砂堆積は進行しません。
(2007年11月 平取町付け替え道路説明会)

2003年8月洪水では、二風谷ダムでは堤体下部の放流ゲート(排砂ゲートを兼ねる)6門を最大に開き、 ダム全体では想定の1.4倍にあたる5500m3/sの放流を行ないました。
このときにダムから流出した堆積土砂は19万m3。 ダム堤体付近の、一部の土砂が排出されたにすぎません。一方この洪水では、290万m3もの土砂が新たにダムに堆積しました。
沙流川のダムでは、排砂ゲートは土砂対策の決定打とはなりません。

平取ダム予定地の融雪期の流量は、わずか10〜15m3/s(※)。 毎年の平均的な流入土砂量は100万m3と見込まれています。これでは、ダムに小さな排砂ゲートを設置して排砂放流を行なっても、 二風谷ダム同様に、完成から数年で膨大な土砂に埋まってしまいます。

また、排砂ゲート自体が、額平川の特徴である膨大な流砂や流木に埋まり、詰まってしまうおそれがあります。



※雨天時には一時的に50m3/s程度になることがある。

【参考】
黒部川宇奈月ダム、出し平ダムの「連携排砂」時の流量は200〜300m3/s程度(2006)。
黒部川の2005年の目標排砂量は10万m3、実績排砂量は24万m3。

排砂放流がうまくいかなくても、それを行なうことで、ダムに1年間にわたって堆積した多量の土砂(泥) が、春先のわずかな期間に下流に放流されることになります。
ダム下流の河川や海域では、ダムからの土砂、泥水による、著しい環境破壊が、毎年発生することでしょう。排砂放流がうまくいくほど、下流の汚染は大きくな ります。

排砂放流が行なわれる4月、5月は、サケ、サクラマス、シシャモの稚魚が海に下り、サクラマスの親魚が川を遡上する大切な時期です。
沿岸海域では、泥による漁業被害が、大きな問題になっています。

平取ダムに、計算以上に土砂がたまることは考えていません。

泥水による、シシャモなど魚への影響は小さいと考えています。
長期的な調査が必要です。
(2008年3月 日高町説明会)

【参考資料】
・ 二風谷ダムの土砂堆積量グラフ
・2003 年8月洪水時に、二風谷ダムから流出した土砂量の図(大洪水時の排砂放流の効果)

・「ダム堆積物が魚に与える影響」(PDF)※リンク切れ
・ 「河川での濁水と微細砂がサケ科魚類に与える影響」(PDF)
・「濁水がサクラマス稚魚に及ぼす影響について」(PDF講演資料)


4.平取ダム問題の概要(PDF版) New!!

2009年10月現在の平取ダム問題の概要を、コンパクトにまとめました。
クリックしてダウンロードしてください。
 

5.平取ダムの基本データ(諸元表)

● クリックで別ウインドウが開きます。



6.ビデオレポート (Youtube)

・沙流川洪水・現地レポート 2006-8 (5:30)

2006年8月の台風10号洪水では沙流川流域に総雨量約300mm の集中豪雨が発生。2003年に続く「100年に1度」規模の大雨となった。
洪水中の下流市街地、二風谷ダム、ゲート破損事故を生じた北電岩知志ダムの様子。
・平取ダム問題・現地レポート 2009-4 (7:30)

ダ ム本体着工が間近に迫った、平取ダム予定地および周辺の状況、ダム建設によって影響を受けるアイヌ民族文化、および下流住民グループの動きと北海道開発局 の対応。


「沙流川水系治水計画変更案の問題」(2005-12)も、あわせてご覧下さい。

まだまだヽ(*`□´*)/ ヽ(*`□´*)/  続く


『二風谷ダム・平取ダム問題  未来に伝えるもの』に戻る

http://mirai00.hp.infoseek.co.jp/nibutani02/biratoridam2007/biratoridam001.html



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