
1.ダムの安全の問題
1)土砂や流木等によってゲートの流下障害が生じた場合、ダム貯水池に
容量の余裕がある場合には、予期せず下流の被害低減につながることが
ある。
しかしそれによって貯水池水位が急激に上昇するため、計画洪水以前に
満水となり、治水施設としての機能を早期に失う危険性があることが、
実際の洪水処理において明らかにされた。
2)サーチャージ水位を超えた場合にダムの安全を確保するために
行われる「ただし書き操作」に関しても、流木等による流下障害の
影響は変わらず、ダムの安全管理の前提が覆されたといえる。
3)このように、外部要因による重大な流下障害が生じている場合、
それが改善されることによる、放流量の急激な増加を考えなければ
ならない。
ある時点で、実質3000t/sしか放流されていなくても、流下を阻害
している流木等が外れたときには、瞬時に何百t/s、あるいはそれ
以上にも放流量が急激に増水する可能性がある。
4)ダムで直接に管理しているのは水位のみである。今回みてきた
ような状況に関して、ダム管理者は現場で把握する手立てを持たない。
また仮に状況を把握できたとしても、対処する手立てもない。
5)流下障害は、ダムの運用に関わる諸データの算定を、直接的に
誤らせる。
◎ダムのゲート操作による放流調節が必ずしも適切にはできないこと、
実際の放流量の把握がリアルタイムにできないことは、刻々と変動する
自然状況の中で、人間の制御を離れたダムが暴走しているのであり、
非常に危険な状態といえる。
◎ダム計画は一般に「100年に一度の大雨によって生じうる洪水」を
対象としている。しかし、実際に100年規模の洪水が発生した場合、
建設時に想定されていない、種々の異常事態が発生する。
これらの異常事態について、現状のダムでは対処することができない。
◎下流の水位・流量変化がダムの諸データと合わないことは、ダム側の
問題ではなく、下流の流量換算式の問題であるという指摘がある。
この指摘を、現時点で「100%」否定することはできない。
しかし、下流計算の問題とした場合、水位28m前後における急激な
傾向変化(理論値と実測値の急激な乖離)を説明することはできないし、
ダム底部オリフィスゲートは土砂で半分ほど埋まり、また上部の
クレストゲートには膨大な流木や異物が押し寄せていた記録があるため、
これらの影響を全排除することもできない。
またダム放流量が正しいとした場合、下流の換算式が大幅に狂うため、
ダムの水位低減効果は、北海道開発局の発表である「1m」から大幅に
下がり、20〜30cm程度となる。
2.河川計画上からの問題
1)流木や土砂等の外部要因によって、+-2000m3/sもの誤差が
簡単に生じてしまのでは、ダムは適切な治水計画を実現する手段
としては成り立たない。
2)誤差の発生は、そのままきわめて重大な事故につながりうる
ものであり、ダムの膨大な貯水量を鑑みると、あまりにも危険である。
3)ただし書き操作を3850m3/sからとしたダムの操作計画に、
現在の治水整備計画(下流の安全流量3200m3/s)が反映されていない。
このため、ダムからの通知がないままに、下流市街地における安全な
水位をこえる可能性がある。
◎仮にダムからの放流量が5500m3/sと正確であった場合、既存の
水位−流量換算式は大きく変化し、ダムによる水位低減効果は
発表数値(1m)の1/3ほどになる。またこの場合、下流の計画高水量
を見直す必要があるだろう。
3.沙流川流域の地域特性からの問題
1)流木の発生、土砂流入は、沙流川の特性ともいえる。
1200km2におよぶ上流域について、これらについての抜本的な対策は、
事実上不可能であり、沙流川の治水をダムに頼ることはきわめて危険である。
今回はすべてにおいて、ある意味でまったくの幸運であった。
4.沙流川の治水事業への提言
1)以上に述べた理由により、沙流川の治水は、膨大な洪水、土砂、流木を
ため込み、あとは「運任せ」となる二風谷ダム、平取ダムによらず、
流域対策、ソフト面の充実による総合治水重視に転換する必要がある
だろう。