
計画値とくい違うダム水位
1.二風谷ダムの限界
二風谷ダムは、ダムの安全を確保できる洪水流量(設計洪水流量)が
最大で6200m3/sとして設計されています。
また、このときの水位(設計洪水位)は49.4mとされており、
これがダムの最後の限界です。
ダムの貯水能力の限界である「サーチャージ水位」は、
48mであり、これ以後の洪水は、ダムに溜めずに
そのまま下流に通過放流をするのが基本となっています。
(「ただし書き操作」)
つまり、サーチャージ水位満水以後、
6200m3/sの洪水が上流から流入し、かつ
ゲートが計画上の最大開度(6200m3/s)とされているときに、
ダム湖の水位は49.4mとなって、
洪水がそのままダムを通過していくのが、
ダム設計上の、安全確保の前提です。
2.二風谷ダムの水位変化
2003年8月洪水の際の、二風谷ダムの最大流入量は
10日1時50分頃の、約6400m3/sであったと発表されています。
(細かい数値では6350m3/s)
これは、ダムの限界である設計洪水流量を200m3/s近く上まわる数値です。
このときのダム放流量(ゲート開度)は、4600m3/sと発表されています。
「出口」が小さくて、「流入量が想定より多い」ならば、
ダムの水位も49.4m以上に上がり、
洪水がダムの上を越える越流が生じるはずです。
ところが、このときのダム水位は48.4mと、
設計洪水位より、1mほども低かったのです。
これはいったい、どういうことでしょうか?
3.ダム流入量、放流量の計算
毎秒のダム流入量は下の計算で求められています。
ダム流入量=ダム放流量+調節量
6350=4600+1750
ダム放流量が4600m3/sのときに、設計洪水流量を
上回る6400m3/sの洪水が流入し、
このときの水位が設計洪水位よりも1m低かった、という事実は、
設計洪水位(設計洪水流量)、ダム貯水量、ダム放流量のいずれかに、
かなり大きな誤差が含まれていることを意味しています。
(1)貯水量の計算
「ただし書き操作」に入っているものの、
実際の流入量が放流量を上回っていたために、
ダムの水位は、毎分3〜5cmずつ上昇していました。
これは毎秒1500m3〜2000m3ずつ、
ダムに貯水が行われていたことを示します。
水位上昇から計算する貯水量は、
パラメータの少ない単純なかけ算わり算でしかなく、
原理上は大きな誤差は生じにくいでしょう。
※流入量が減少していく時間帯においては、
ダムに堆積した土砂によって、少なからぬ誤差を
生じていると考えられます。
* *
(2)放流量の計算
ダムからの放流量は、基本的には
ダム水位とゲート開度からの関数として求められます。
これは操作規則に表としてまとめられています。
またダムでは、水位変化を観測し、
コンピュータで常に計算しています。
ところが実際には、洪水の土砂を含む泥水としての抵抗、
先に述べた、ゲート周辺の流木等による流路の抵抗、
ダム下流側水位の影響等、ダム湖内の流速変化等、
自然現象として不確定なパラメータが数多くあります。
このため、非常に誤差が生じやすいものと考えられます。
* *
(3)設計洪水位、設計洪水流量の計算
これらも、基本的には放流量の計算と同様です。
設計上の数値ですから、実際には放流量の計算同様に
各種パラメータによる誤差が生じるでしょう。
ただし、この誤差は、実際の流量に対する水位を上げる方向で
生じる場合が多いと思われます。
またこのとき、水位上昇は「流入量の増大」として
記録されるだけであり、発生した誤差は認識されません。
4.計算誤差が意味する重大な危険
ダム水位が、計算上のゲート放流量、および設計上の水位と
大きくかけ離れていたという現実は、
ダムの実際の放流量が、計算値よりも
かなり少なかったという事態を示している可能性があります。
現実のダム放流量が、ダム操作によるものよりも
少なければ、実際のダムへの流入量も、
発表値よりも、相当に少なかったと考えられます。
* *
ダムの安全を確保するための「ただし書き操作」において、
計算値どおりの放流が行うことができないのであれば、
ダムの安全確保の前提が覆されたことになります。
「設計洪水流量」よりも少ない洪水によってさえ、
ダムが堤頂越流を起こし、重大事故につながる危険があります。
また、単にダム湖の水位観測のみによって流入量、放流量等を
決定するダム運用の原則にも、大きな問題があるでしょう。
ただし書き操作規則(抜粋)と、ダム発表の流量(水位上昇時)
|
ダム水位 |
主ゲート開度
(操作計画) |
放流量
(操作計画) |
流入量(発表値) |
放流量(発表値) |
調節量
(流入量-放流量) |
備考 |
|
47.7 |
3.50 |
3649 |
5955 |
3666 |
2289 |
ただし書き操作水位 |
|
47.8 |
3.55 |
3729 |
5968 |
3720 |
2248 |
|
|
47.9 |
3.71 |
3882 |
5939 |
3852 |
2087 |
実際の操作開始 |
|
48.0 |
3.97 |
4105 |
5784 |
4080 |
1704 |
サーチャージ水位 |
|
48.1 |
4.08 |
4231 |
5702 |
4226 |
1476 |
|
|
48.2 |
4.18 |
4354 |
5815 |
4321 |
1494 |
|
|
48.3 |
4.29 |
4486 |
6018 |
4452 |
1566 |
|
|
48.4 |
4.39 |
4614 |
6353 |
4586 |
1767 |
最大流入量 |
|
48.5 |
4.50 |
4753 |
6020 |
4720 |
1300 |
|
|
48.6 |
4.60 |
4888 |
5936 |
4887 |
1049 |
|
|
48.7 |
4.71 |
5035 |
5947 |
4995 |
952 |
|
|
48.8 |
4.81 |
5178 |
5925 |
5171 |
754 |
|
|
48.9 |
4.92 |
5335 |
5828 |
5291 |
537 |
|
|
49.0 |
5.02 |
5490 |
5660 |
5452 |
208 |
最高水位49.01m |
|
49.1 |
5.13 |
5661 |
|
|
|
最大放流5506t/s |
|
49.2 |
5.23 |
5829 |
|
|
|
|
|
49.3 |
5.34 |
6016 |
|
|
|
|
|
49.4 |
5.44 |
6201 |
|
|
|
設計洪水位 |
「ただし書き操作規則」によるゲート開度は、7門のオリフィスゲートを正常に使用した場合の数値。
8月10日洪水時には1門が整備中で使用できなかたっため、他のゲート開度を大きくして補っていた。
目次へ戻る