
★「ただし書き操作」が下流を守る?? (2005.12.2アップロード 2007.8.17更新)
(1)ただし書き操作と堤頂越流
2003年8月の洪水において、洪水調節の限界であるサーチャージ水位満水となった二風谷ダムは、放流
ゲートを大きく開き、下流の堤防限界以上の放流操作を行いました。これにともない、ダム下流の平取町、
門別町では、「二風谷ダム決壊のおそれ」、「堤防決壊のおそれ(開発局提出の裁判資料)」として、
避難勧告が出されました。
沙流川のダム下流平取地点の堤防規模は、現状で3200m3/sであり、将来的には3900m3/sとするよう
治水計画が定められていました(H14河川整備計画)。また、二風谷ダムからの下流の安全な放流量は、
3850m3/sとされていました。実際の河道の流下能力は、2000m3/sに満たない区間がありました。
ゲートを大きく開く「ただし書き操作」によって、二風谷ダムの放流量は、これら下流の安全流量を
大きく超え、約5500m3/s(開発局発表値)にのぼりました。,幸いにして堤防決壊には至ることはありま
せんでしたが、下流の堤防規模をこえた放流により、下流各地域では浸水被害が発生しています。
この「ただし書き操作」について、北海道開発局は新聞発表(2003年8月22日北海道新聞)等において、
「洪水がダムを越えて制御を失い、急激に下流に流れることを防ぐための放流」であり、「下流を守るため
の放流」であることを強調しています。また「ダムは絶対に壊れない」とも強調されています。
上記の発表は、元・建設省河川局長の竹村公太郎氏が、建設専門誌への投稿記事にそのまま引用し、ダムの
「ただし書き操作」の安全性を強調しながら、その問題について報じた新聞報道記事を強く非難しています。
(これらの各発表については、当サイトのリンク集などを御覧下さい)しかし、ダムというものは、貯水を行うことで下流の洪水被害を防ぐために建設されるものです。
ゲートを開き、より多量の放流を行うことが、本当に「下流を守るため」のダム操作なのでしょうか?
ダムの「ただし書き操作」と、それを行わず、ダムをこえて洪水が溢れ出す「堤頂越流」の場合について、
下流へ流れるピーク流量の比較検討を行ってみました。
1.通常の洪水調節 ダムの通常の洪水調節の一例です。一定の流入量になった時点から貯水を行い、洪水調節を行います。
流入量が増加するに従って放流量も増加しますが、流入量のピークを過ぎてから、それを下回る放流量のピークとなります。流入量と放流量の差分が、ダムの洪水調節効果となります。
想定された洪水(計画洪水)に対しては、下流の安全な流量(計画高水位・グラフ中の点線)を超える放流を行わないよう、ダムの規模や放流量、操作方法が定められています。放流ピーク以後は、流入量を上回る放流を行い、ダム貯水位を低下させていきます。
2-1.ただし書き操作の例a ダムがサーチャージ水位満水となる予測が出され、サーチャージ水位(実際はその少し下)に到達すると、「ただし書き操作」に移行します。
ゲートを開く等のダム操作によって、流入量と放流量を合わせていきます。ダム下流では、堤防の限界を超えてから、急激に水位が上昇します。
ただし書き操作によって、流入量と放流量を合わせても、同量となる時刻までに、流入ピークが過ぎている場合には、放流量は流入量を下回ります。
流入量ピーク
>ただし書き操作の放流量ピーク
2-2.ただし書き操作aと堤頂越流の比較 ただし書き操作を行わずに、そのままの貯水を続けた場合、ダムはいっぱいとなり、上から溢れ出す場合があります(堤頂越流)。越流が始まると、流入量と同量の放流量となります。
しかし、流入量=放流量となる時刻が後ろにずれますので、越流による放流量は、ただし書き操作による放流量を下回ることになります。
流入量ピーク
>ただし書き操作の放流量ピーク
>堤頂越流の放流量ピークしかし、サーチャージ水位(実際にはただし書き操作開始水位)からダム天端までの余裕がない場合には、この時間差が小さくなるため、堤頂越流によるピーク放流量が、ただし書き操作によるピーク放流量を上回る場合も考えられます。この場合も、流入量ピークよりは堤頂越流による放流量ピークの方が小さくなります。
流入量ピーク
>堤頂越流の放流量ピーク
>ただし書き操作の放流量ピーク
3-1.ただし書き操作の例b ただし書き操作によって放流量を増やし、流入ピーク以前に流入量と放流量が同量となる場合、ただし書き操作を行ったダムは、ピーク流量の低減に貢献しません。
流入量ピーク
=ただし書き操作の放流量ピーク
3-2.ただし書き操作bと堤頂越流の比較 3-1の場合でも、堤頂越流まで貯水を続けた場合には、流入量ピークを、放流量ピークが下回る場合があります。また越流のタイミングによっては、堤頂越流においてもピークが低減されない場合があります。
流入量ピーク
=ただし書き操作の放流量ピーク
≧堤頂越流の放流量ピーク
以上見てきたことから、計画規模を上回る洪水の流入に対し、貯水を継続し堤頂越流が生じた場合でも、
「ただし書き操作」による放流量を上回る越流などは、ほとんど生じないことがわかります。
最悪でも、「流入量=ただし書き操作の放流量=堤頂越流の放流量」となるだけです。これはこれで、
ダムの治水施設としての機能を考えれば問題ですが、ただし書き操作をすることが、堤頂越流よりも
必ず下流の被害を軽減できるわけではありません。ほとんどの場合、ただし書き操作によって、下流への
ピーク放流量は増大します。
また、貯水を続けたからといって、必ず堤頂越流が生じるわけでもありません。多くのダムでは、
貯水限界とされるサーチャージ水位と、ダムの構造的な上端(天端)の間には、2m前後の余裕があります。
サーチャージ水位を超えてもそのまま貯水を続けるほうが、「ただし書き操作」を行う場合よりも、
下流への放流量は小さくなる場合が多いでしょう。「ただし書き操作」は、「想定されていないダム越流までに、十分な余裕を持った状態で、流入量と
同量の放流を行おうとする操作」です。
このような操作が定められている以上、ダムには、下流の被害を増大させてでも、越流を避けるための
放流を行わなければならない理由があります。